平成22年12月盛岡市議会定例会
公共交通問題調査特別委員会
調査報告書(案)

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平成22年12月盛岡市議会定例会
公共交通問題調査特別委員会
調査報告書(案)

平成22年12月22日提出

 公共の福祉の増進について, 移動や交通の分野では, 2006年に施行されたバリアフリー新法 (高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律) が, これを具現化した法律として制定されています. ここでは, 高齢・障がいなど身体的な障壁を理由とした交通移動の制約を除去することとし, 権利保障の観点で国・地方公共団体・輸送機関の責務を規定しています.

 この, 誰もが公共交通機関により移動できる権利は 「交通権」 と呼ばれます. これは, 新しい人権として, 基本的人権保障の色合いの強い理念ととらえられており, 現在の公共交通サービスの維持を行う際の考え方になっています. この交通権には, 前述した高齢者・障がい者の移動の保障のほかにも, 子どもの社会参画, また不採算路線の交通の確保も当然含まれるものです.

 公共交通事業は, 単に移動の手段というだけではなく, 文教施策や福祉・医療施策, 厳冬期の移動, 交通安全, 更には, 過疎地域の地域振興や環境問題, エネルギー問題, バリアフリーなどの施設改修等, 広範な分野の課題を考慮しなくてはなりません. 本市での交通事業は, 民間会社の事業として独立採算制を前提に実施されていますが, これらはすでに民間交通事業者の業務範疇を超えていると思われます. 市民の交通権を満たすためには, 行政の積極的な関与や調整が必要であり, かつ期待されています.

 クルマ社会の進行により, 公共交通の輸送分担率は大都市圏など一部を除き低迷を続けています. これに加えて, 人口減少や大型郊外店の増加, 高速道路無料化社会実験を含めたモータリゼーションの要因などで, 破綻する交通事業者が全国的に相次いでいます. このことから, 本市の公共交通事業者の現状や今後の事業方針, 交通事情の政策的背景などを把握し, 活性化させる必要性を強く認識しました. そして, 今後の社会情勢を見据えた公共交通のあり方と, 今後の展望を調査するために, 平成21年6月22日, 盛岡市議会では当委員会を設置しました.

 委員会では, 「事業主体」, 「行政機関の関与」, 「利用者の視点」の三つの点に着目をして項目を選定し, 調査を進めました.

 「事業主体」 の観点では, 公益性の高い事業を行っている民間事業者の実態や課題と今後の展望について, 更には先進的なシステムを導入し, 活用している事業者の調査を行いました.

 「行政機関の関与」 の観点では, 現状では盛岡市総合交通計画に沿った公共交通の運行をしている民間会社が, 行政と密接不可分な状態でどのように事業を展開しているか調査しました. また, これらの事業者に対する市や国・県の支援策や企画調整, 更には社会実験など一連の活性化策を調査しました. 加えて, 本市が直営で運行するスクールバスや患者輸送バスなどの実態と課題についても把握に努めながら, 官民が補い合って行う地域交通のあり方について考察しました.

 「利用者の視点」 の観点では, 地域住民意見の反映, 施設整備, 懸案となる新駅設置やバス路線の再編成などについて, それぞれの現状を, 市内各地において試乗や現地視察を行うことで検証しました. また, 先進地区の視察を実施した上で, 学識経験者, 関連する交通事業者, 監督官庁, 研究機関, 関連企業に委員会への参考人出席を求め, 説明を受けました.

 以下, 本市における公共交通の現状の把握と今後の改善点をまとめた, 当委員会の調査結果を報告します.

1 政策的背景からみる公共交通の現状と課題について

(1) 受益者負担の原則と公的な関わりについて

 国内の民間交通事業者の運営は, 原則受益者負担, つまり運賃や関連事業収入など利用者・使用者からの受益により行うことが原則とされています. しかし, 交通権の保障の概念では, 採算性の低い過疎地での運行, 施設や車両の改修・改善に多額の設備投資を要する交通機関のバリアフリー化など, 民間事業者の運営を圧迫する事由もあることから, 公的な機関の支援や関与が必要となる分野でもあります.

 鉄道経営については, 東北地方は事業採算性の厳しい地域です. JR 東日本は完全民営化を達成したものの, 首都圏や新幹線の黒字での内部補助により東北地区の在来線を運行しているのが現状です. また, 運賃値上げなどで利用者へ負担を転嫁することなく運行しているため, 地方交通線に積極的な投資はなく, 現状維持的な運営を行っています. 国鉄改革の枠組みで路線維持は果たされているものの, 沿線自治体の新駅設置や本数増などの要望には応えることが出来ておらず, 街づくりも鉄道中心から道路活用を中心とした市街地形成に移行している現状です. 運輸施策を見直す中で, 既存のインフラを活用した施策の展開が必要だと考えられます. 本市でも鉄道事業への協力として, 請願駅方式による新駅設置に係る事業費の計上が検討され, 東西自由通路の設置においては, JR と按分をしながら施設改良の姿勢を示してきています. 全国的には, JR宗谷本線や JR 津山線の高速化や JR 高山本線の社会実験など, 積極的な取り組みも実施されています. 国と JR, 県, 自治体の枠組みの中で, 在来線を活性化させ持続した運営のできる仕組みを早急に作り出す必要があると考えられることから, 本市も積極的に関与して JR 在来線の活性化を図ることが必要だと考えられます. 特にも新駅に関しては, 全国的に設置要望が上げられているものの, ハードルの高さが目に付く状態です. 全国の自治体が一丸となって, 国に対し, 地方の実情に沿った駅の新設が促進されるような JR との調整や, 構造規則等の法令改正の要望をすべきです.

 バス路線については, 全国的な傾向として運営主体が公営, 民営問わずに地域毎に輸送を担っていて, 新規参入が事実上不可能であるのが実情です. 2000年の需給調整の廃止によって参入と撤退が自由化されると, 不採算路線からの撤退が相次ぐなど, 路線維持には厳しい現状です. 本市の場合は直営の交通機関を持たず, 民間事業者の独立採算での運営を前提としています. その中で, PTPS (公共車両優先システム) を組み合せた専用走行空間やバスターミナルの設置が, 全国的な先進事例として評価され, 他の自治体からの視察を多数受けています. 本市では松園地区に代表されるこれら黒字路線の利潤を, 内部補助として活用しながら市内外のバス路線網維持に努め, さらに県や自治体による企画や支援を受けながら運行して, 市民の足を確保している現状です. 一方で, 都南地区や青山地区, 盛南地区など利用の低迷が続く地区は, 路線の再編成が課題となっています. 他方, 他市の公営交通は, 行政改革の流れの中で民営化の対象となっていることが多いものの, バス事業撤退後の生活交通の確保やコミュニティバス事業, 福祉輸送などの分野では,自治体による財政負担を伴った運行がされています.

 このように運営形態は多様ですが, 自治体の交通戦略や基本構想に対し, 交通事業者を一定程度拘束する措置を講じる強制力を持ち, かつ支援する措置を講じて, 互いのメリットを追求することが必要だと考えます. 住民の福祉向上のための交通計画と実際の運用との間に乖離があるのが現状です. 交通事業者との調整ができなければ, あるいは, 一定の統率が出来なければ, 公共交通活性化の目的は達成できないと考えます.

(2) 国(監督官庁)との関係について

 国の運輸施策で問題が顕著であるのは, 並行在来線です. 1997年の長野新幹線開業時の経営分離に始まり, 二例目となる盛岡・八戸間で定着した感のある経営分離ですが, 九州新幹線長崎ルートでは, 並行在来線を JR が引き続き運営する方針を打ち出したり, また北陸新幹線の金沢開業では, 長野・新潟・富山がそれぞれ並行在来線の引き受け会社を設立する動きを見せるなど一貫性がなく, 地方の交通が分断されています. 2015年の新幹線函館延伸では, IGR いわて銀河鉄道 (以下,IGR と記述) の経営を左右する寝台特急の本数減が現実味を帯びてきました. 国の骨格である鉄道経営の責任と, 並行在来線の抱える問題を地方に負担させる施策の問題点を指摘した上で, 基金の積み増しや支援策について, 並行在来線を抱える沿線が一丸となって要望していく必要があります.

(3) 財源について

 欧米と日本の交通施策の大きな違いは, 交通に対する税の負担割合です. 日本の交通事業者が概ね独立採算制であるのに対し, 欧米では運賃収受で運営費を賄うという概念はなく, 概ね 50% は公的助成で運営されています.

 ドイツでは州単位での運輸連合が組織されており, 地域の課税自主権に基づいて独自に交通税の徴収を行い, 企業や沿線住民の負担を頂きながら交通網の整備を実施しています. また, 乗換えにおいても, 初乗り運賃の課金のない擬制キロや地区内同一運賃制度などの導入により, 公共交通への誘導を行い, 脱クルマの流れを政策的に展開しています.

 国内に目を向けると, 道路関連と鉄道関連の予算は 50 対1程度でしかありません. しかも, 道路や鉄道, 航空, 船舶などはそれぞれ縦割りの監督官庁の管轄であり, 鉄道を廃止しながら並行して高速道路や空港を作るといった矛盾も出てきています.

 本市をはじめ全国の自治体は, 国の補助メニューへの拡充要望という主従関係ではなく, 地域事情を把握しているという特性を全面的に出し, 政策立案力を向上させ, 現場から見える国の施策の矛盾点を洗い出すことが必要です. また同時に, 権限や財源あるいは人材も移譲するような積極的な提案と提言を行うことが必要です.市民の足を守るという観点から, 盛岡市でも総合交通戦略に沿った様々な交通施策が展開されますが, その財源確保について, 税源移譲を要望するとともに, 地方の課税自主権の活用なども検討されることを望みます. そのために地方自治体は, 国の個別事業との抱き合わせによる負担だけではなく, 政策的に公共交通を選択するのか, クルマや自転車など他のモードを選択するのか, 方向性を見定めた公共交通施策を, 利用者の交通権保障を前提として実施することが必要となります.

2 盛岡市における公共交通の課題と改善案について

(1) 鉄道について

 市内では JR 東日本と IGR, JR 貨物の3社が運行し, 地域輸送と貨物輸送を担っていますが, 東北新幹線が青森まで全線開通し, かつ東北本線開業 120 周年の記念すべき年に, 東北本線の終着駅は盛岡駅となってしまいました. 輸送の主役となった定期優等列車の発着もなくなり, 残念ながら在来線に以前の活気は見られません. 地域輸送の活性化には, 国鉄民営化時に JR 三島会社が実施した, 新駅の設置や運行本数の増大, 車内アコモデーション (車内設備) 改良が有効であると考えられます. しかし, 現在の JR 東日本盛岡支社管内の在来線には積極的な投資がされず, 自治体の支援により活性化されることが期待されています. 鉄道復権に対しては, JR の自助努力だけでなく, 沿線自治体と県が連携して取り組むよう, 地域の実情を知る本市が先頭に立って, 市長会等を通じた働きかけを国に対して行うべきです.

JR 東日本の主な収益源は, 首都圏の運賃収入と関連事業収入です. 関東地方と東北地方の旅客線の運賃収入比は 93 対7で, 内部補助により東北地方の路線が運営されているといえます. 本市はこの現状を認識した上で, 今のままで良いのか問いながら, 支援措置を講じる必要があります.

 在来線のうち, JR 田沢湖線は新幹線直通特急の運行で標準軌改良され, クルマとの競争性も高い路線になりましたが, 市内には駅がなく, 沿線住民はその恩恵を受けていません. 市では (仮称) 前潟駅の建設により, 一日 1,100 人前後の利用者が見込めると試算しています. また, 隣接するショッピングセンターとの連携や都市間輸送バスとの連携も可能であり, 沿線住民も期待しているものです. 着工には駅施設の建設費のほか, JR のシステム改修費用が別途必要となるという試算もされていますが, ダイヤ改正時などの機会を捉え, 早期に着工すべきです.

 JR 東北本線は新幹線の補完という位置づけですが, 在来線自体の強化については, クルマ社会との関係を念頭において進めるべきです. 京阪神での新快速ネットワークを参考にした車内アコモデーションの改善や県内の各都市, 平泉, 松島, 仙台との連続した運行などで, 都市間輸送バスに流れた利用者の回復が必要です. また, 駅施設の改良について, 仙北町駅の橋上駅化の実現は待った無しの現状です. 当駅は橋上駅に配慮して高架構造としたところですが, 20年も停滞していて, 早期の完成が必要です. さらに, 仙北町駅・岩手飯岡駅間の新駅設置についても, 早急に調査を実施し, 区画整理事業と連携して, パークアンドライドなどクルマ利用者もとり入れた施設を併設するべきです. 岩手飯岡駅については, 駅舎の待合室に設置されているベンチが7つだけであり, 一日 4,800 人の乗降客数を考えるとあまりにも狭隘です. 駅前広場が完成し, 都南バスターミナルの機能移転が検討されており, バス便との接続が期待されています. 構想にある橋上化とあわせて早期実行され, 利用者施設の充実を図る必要があります.

 山岳地域を走行する JR 山田線 (以下, 山田線と記述), JR 花輪線の活用についても, 定期利用対策以外の観光面にも着目し, 積極的に方策を講ずるべきでしょう. 営業係数など, 経営状態を示す詳細なデータは未公開ですが, 関係者の話を総合すると, これらは採算性には遠く及んでいない路線であることが推察されます.

 山田線については, 住宅密集地である盛岡から下米内地区までは, 駅勢圏人口, 学校や公共施設, 並行する道路の整備状況等の地理的条件は良く, 活用されずにいることが悔やまれます. 抜本改革をしなければ早晩廃止論議もされかねない現状であり, 危機意識をもって対応することが望まれます. また, 新幹線接続の優位性も生かしきれておらず, 観光面での利用拡大策も限定的です. 秋田・青森では, リゾートしらかみ号等の運行など, 鉄路活用の施策が実施されていることを考えると, 本県や本市は無策過ぎではないでしょうか. 併せて, 大正末期から昭和初期に建設された施設の老朽化などの懸念材料もあります. JR 岩泉線が今年7月の土砂崩れの影響で現在も不通のままであることは, このような路線が置かれている立場を示唆しているといえます.

 視察を行った富山市の JR 高山本線活性化社会実験は, 新駅設置を含め, 列車増発やパークアンドライド, 接続バスの運行など, 自治体と事業者が一体となって活性化事業を展開しており, 市民になくてはならないと意識変革をもたらしていました. 是非参考にして, 市街地を走行する優位性を活用した山田線活性化の社会実験を実施するべきです. 駅の大幅な増設や改良, 運行本数の増加, パークアンドライドの実施, 更には JR 東北本線や IGR 線・JR 花輪線からの乗り入れを図り, 市東部の住民に山田線利用の選択肢を提供してはどうでしょうか.

 また, 市内の鉄道は, 線路で市街地を分断しています. 全国的には連続立体交差事業を実施し, 市街地分断や開かずの踏切対策の解消を図っています. 本市でもかつて山田線で検討されましたが, 単線区間の山田線の踏切などは, このようなハード事業に頼らずに踏切信号の設置を図るべきです. 渋滞のネック解消に向け, 同様の問題を持つ全国の自治体と連携した取り組みをされることを期待します.

 IGR 線については, 青山・巣子駅開業の新駅効果はあると現状分析され, 厨川駅自由通路の完成による駅勢圏拡大も利用増に寄与すると試算されています. また, 盛岡近郊区間での更なる新駅も検討されているようです. しかし, 沿線人口減少と 2015 年新幹線函館延伸に伴う寝台特急列車本数減による旅客収入の減少, JR 貨物の運行による線路補修費負担が懸念材料となっています.

 また, JR 貨物に対する線路使用料の適正化の議論も, 国, 県でされています. 国鉄改革の趣旨では, 過度に JR 会社への財政的な負担をしないとしています. 並行在来線誕生の経緯から言えば, 単純に JR 貨物に課金して矛盾を拡大させるのではなく, このような歴史的経緯を整理した上で, 国の責任による支援を求めることが必要です. JR 貨物への矛盾の押し付けは, 結果として物流コストの押し上げに繋がり, 国民の生活に影響を及ぼすことになります. また, これは輸送・交通手段の転換を図るモーダルシフトにも逆行することを念頭に議論することが必要です.

 現在, 盛岡駅を境に JR 東日本と IGR の2つの旅客鉄道会社が存在しています. 市政の発展が事業者の区分により分断されることなく, 市民の移動が抵抗無く行えるよう, 事業者間調整を実施するべきです. 特に利用者の多い好摩, 矢幅駅間はシャトル運行等を行い, 通学・通院の利便性の向上や厳冬期の交通安全, 高齢者の足の確保を図るべきです. また, IGR 定期の激変緩和措置も2年に1度更新されていますが, 継続実施や恒久的措置などその安定的な運用を措置し, 割高と批判のある市北部と南部の運賃の緩和や, 会社間をまたがって利用した際の割引などを実施する必要があります.

(2) バス事業について

 盛岡市のバス事業は全て民間事業者による運行です. 岩手県交通では, 都市間輸送 10 系統, 一般路線 195 系統, 定期観光バスが6系統で計 211 系統あり, 平成21年度の利用者数は 18,149 千人です. ほかに岩手県北バスの都市間輸送9系統, 一般路線 15 系統と, 薮川を経て岩泉まで運行する JR バス1系統があります. このうち岩手県北バスは経営破綻し, 企業再生の取り組みが行われているところであり, 厳しい経営状況に置かれています. 本市のバス交通事業における課題は, 民間会社の持続可能な運営に対する協力と, 利用者の声の吸い上げです. 市民の福祉の向上を図りながら, かつ財政的な規律を確保する方策を講じることが重要であると考えます.

 盛岡市のバス施策はオムニバスタウン構想により整備されてきました. 松園ゾーンバスは, 先述のとおり PTPS の導入や優先車線の設置により利便性が高く, 黒字路線となっており, 全国的な成功事例として評価が高いものです. また, 市内循環バスも収益性の高い事業となっています. 他方, 青山地区や都南地区, 開発を進めている盛南地区でのバス路線網の利用は低迷しています. 鉄道についての項でも触れましたが, 特にも, 活用度合いの低い都南バスターミナルと岩手飯岡駅の機能が統合され, 交通結節点が改良されることが期待されます.

 今後のオムニバスタウン構想においては, 運用の見直しが求められている青山・都南・盛南地区のみでなく, 松園地区でも利用者ニーズの調査を行う必要があります. 利用者の年齢や利用目的によってニーズは異なり, それによる利用促進策も異なります. 新庄循環線実証運行では, つつじが丘の住民ニーズが 「自宅から近い停留所」 であることが把握できました. このような調査を行えば, 採算性の高い路線や商品を開発することが可能になります. 特に中心市街地への家族パスや大型行事の際の臨時運行などについても, 検討する資料になるはずです.

 本市のバス運賃は, 車両ごとの距離制課金制度をとっており, 定期券利用を除けば, 乗り換えの度に課金される仕組みとなっています. IGR 線とバスの定期券相互利用など一部に共通利用の動きが見られ, 前向きな取り組みも実施されているところですが, バスとバス, 鉄道とバスの乗り換え時の乗継割引の制度は一部にとどまっています. この運賃収受の問題については, IC カードシステムの導入により事業者間の精算が可能となれば, 解決に一歩近づくと考えられます. しかし, 導入には公費負担のほかに事業者負担も必要であることが障害となっています. 他には, 欧州で実施されている共通運賃化や均一運賃化も解決のためには有効と考えられますが, 事業者間の抵抗が強いと思われます. しかし, クルマから公共交通へ政策的に誘導するという観点からも, 分かりやすい運賃体系や, 時間帯による運賃の割引などを事業者とともに検討するべきではないでしょうか.

 また, 利用促進の視点から, 全てのバス停にベンチ設置を望みます. 現行法令では不適格であるとのことですが, 高齢者が地べたにすわってバスを待つ光景は残念です. 実現に向け方策を検討するべきでしょう. 広告付であれば, 事業者や自治体の負担は軽減されるはずです. また, バス停の増設はもちろんですが, 同一名称で違う場所にあるバス停の解消や案内板の設置, フリー乗降区間の市内部での拡大を検討することも必要でしょう.

 都市間輸送バスは, 鉄道に優位性のある秋田市方面を除き県内外の都市との間に設定されており, 盛岡・宮古間は並行する鉄道を完敗させるほど充実しています. 都市間バスは, 鉄道・クルマを補完し, ビジネスや観光の充実にも寄与する重要な交通手段です. 新幹線は所要時間が短いものの料金が高い. 一方, 在来線は乗換抵抗が大きく, 車内アコモデーションに課題がある. このことから, 都市間輸送バスはその中間的な交通手段として定着し, バス事業者の重要な収入源となっています. 実際, 盛岡駅西口バス乗り場には, 多数の送迎のクルマが横付けされていることから, その需要は高いと考えられます. 都市間輸送バス利用の促進は, 市政の発展に寄与するものと考えられることから, 何らかの施策を展開する必要があります. 徳島県の施策 (とくとくバスターミナル) を参考にしたパークアンドバスライドを盛岡でも実施し, 例えば (仮称) 前潟駅とバス利用者駐車場を合築した施設の整備などをショッピングセンターと連携して実施し, 全国的なモデルケースとなるような施策の展開を行ってみてはどうでしょうか.

(3) タクシーと航空について

 タクシーも, 広義では公共交通として扱われます. 盛岡地区のタクシー登録台数は現在 1,021 台です. 2002 年の規制緩和後の競争激化で, 初乗り運賃は相次ぐ値下げ競争の結果, 現在, 320 円, 520 円, 560 円, 580 円と4段階となっています. 利用者からは, 運賃値下げは新規参入効果と評価を頂いている一方で, 安全性・収益性や労働条件の悪化を懸念する指摘もされています. 昨年10月1日には, 「タクシー適正化・活性化法」 が制定され, 盛岡地域におけるタクシーの新規参入が規制されました. また同時に, 低料金業者から毎月の業績を求め, 運転手への過度な負担がかからないよう監督官庁の監視が行われ, さらに, 稼動していない車両の減車をするよう指導がされていることもあり, 業界の適正な対応が求められています. 雇用調整機能もあり, 雇用の受け皿であったタクシー業界は, 平成 14 年度には一台当たりの一日の売り上げが 25,200 円でしたが, 競争激化後の平成20年度には 18,728 円に下がり, 新規就労には厳しい現状です. 業界の健全育成が望まれているところであり, 自治体でも検討を始めるべきでしょう. たとえば公用車運行をタクシー業者に委託することも検討してはどうでしょうか.

 タクシーは最終電車・バス発車後の唯一の交通手段です. また, クルマを運転できない高齢者等, 買い物難民の日常の足になるという側面もあります. 福祉の視点からも, タクシーの利活用を業界と一緒に検討するべきです. タクシー事業者が公共交通事業者として委託を受け, デマンド輸送を行っている事例もあることから, タクシー業者との連携を強化し, 市内の過疎地の有償運行について検討してみてはいかがでしょうか. また, 内丸官庁街にタクシー乗り場が欲しいという要望が, 利用者からも事業者からも寄せられています. 市・県が連携してタクシー乗り場を設置し, 利便性向上を図るべきではないでしょうか.

 盛岡市における航空施策の展開にも, 本市は関心を寄せることが大切です. また, 特定の輸送機関のシェアが寡占状態となれば, 適正な競争が起こらず利用者に不便を強いるという観点からも, 促進を図るべき施策と考えられます. 実際に秋田市から首都圏への移動では, 移動手段の比率が鉄道6対航空4であり, 運賃の各種割引がなされるなど, 活発に競争されています. その結果, JR の場合, 盛岡と東京を往復するより, 秋田と東京を往復するほうが割安となる切符も発行されているという, 移動距離と運賃の逆転現象が起こっています.

 本市は出資者として, より経営状況に関心を寄せ, 新ターミナルや無料駐車場を生かしたいわて花巻空港活性化について, 支援していくべきと考えます.

(4) スクールバスと患者輸送バスについて

 市内には特定の目的により直営で運行している交通に,ス クールバスと患者輸送バスがあります. いずれも利用料は無料であり, 受益者負担で運営される交通手段とは一線を画しています. スクールバス運行事業は市教育委員会の所管であり, その運行理由は中山間地域の小・中学校の統廃合により代替輸送が必要となったためとされています. 現在, スクールバスが運行されている地域は, 公共交通の空白地域・不便地域であるため, 児童生徒の登下校時を含め, 一般客の混乗を認めてほしい旨の要望があげられています. また, 患者輸送バスも直営で中山間地区から市中心部の病院へ運行されていますが, 通院以外にも買物などへの利用拡大が望まれます. スクールバスと患者輸送バスは, 市民の交通手段という意味では同様のものです. 将来的には一括した管理を検討してはどうでしょうか. 仮に混乗となり運賃収受を行えば, 所管はともかく実態は直営のコミュニティバスと類似したものになります. コミュニティバス運行は, 公営交通を除けば自治体直営の運行事例として全国的に見られます. その特徴は, 行政の企画した運行であること, きめこまかな停留所の配置, 運行ダイヤの分かりやすさ, ワンコインなど分かりやすい料金体系であり, 既存バス路線の合間を縫って運行されている事例が多いものです. 直営で行う交通事業についてのあり方を再考し, 再編成をするなどして, 路線バス撤退地区における公共交通再開の財源とするなど, 本市の見解を示すべきではないでしょうか.

3 公共交通の活用にむけて

 人生のおよそ3分の1はクルマの恩恵に与れない現実があり, 高齢化社会の進行による運転免許返上の動きが活発化している中で, 受け皿となる公共交通の重要性を主張する論調も根強くあります. しかし, 単なる活性化論やノーマイカーデー, 減クルマチャレンジのような啓蒙活動だけでは, 利用者減に歯止めがかからないと感じられます. たとえば, クルマか公共交通の二者択一の選択肢だけではないライフスタイルの提案もあります. 近年はクルマの所有から共有へという新しいライフスタイルも定着しつつあり, このような提案からクルマへの依存度を減らすという誘導策も一考に値するのではないでしょうか. また, 委員会では公共交通事業者の経営意欲を伺えたものの, 今後の少子高齢化や過疎化の流れから長期的な見通しは厳しく, 先行きを懸念する声を多く頂きました.

 今後の公共交通政策は, これまでに引き続き民間事業者の運営を期待するのか, 税負担を実施した上で下支え的に関与するのか, あるいは積極的な関与により公共交通政策を調整し展開するのか, の三つを選択することになるのではないでしょうか.

 公共交通の活性化は, 第一義的には, 事業者自身が利用者の視点に立った運行をすることです. しかし, この構図ではおそらく現状維持が精一杯であり, 進展は望めません. 活性化するには, 事業者を支援しながら, 本市が政策誘導を実施していく必要があります. その際は当然のことながら, 支援する根拠, 外部費用・社会的費用の正確な見積りを市民に示し, 説明責任を果たしながら執行していくことが必要です. 本市での交通権確保のためには, 市が調整機能を発揮し, 運賃や路線などを, 利用者からの意見も踏まえて策定することが必要です. その際には, 域内交通の提供について, 市が持つ責務を自覚した上で, 市民との合意形成を図りながら, 財源の手当ても含め広範で綿密な計画を策定し, 実行しなければなりません. ここでは, 中心市街地活性化や公共施設の公共交通沿線への立地, パークアンドライドなどの政策的な公共交通誘導策を実施するという, 街づくり全体で公共交通に軸足を置く姿勢が求められるものです. また, 交通を道路, 鉄道・バスで分けるのではなく, これらを一体的に見なし, 道路整備, 公共交通活用にかかる費用や時間を, 総合交通政策として一体的・合理的に把握し, 縦割りを越えて企画調整する政策立案力と, 国に対し積極的に分権要望を行う力, そして現場から提案を行う力を向上させるべきと考えます. そして, 盛岡市の交通政策が, 先進的な取り組みとして評価されることとあわせて, 国の交通政策にも影響を与えて, 日本全体の公共交通を活性化させようという気概を持って, 取り組みを進めることが必要です.


(調査報告書案 終わり)

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鈴木一夫後援会事務所 © 2011年10月30日
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